ふふ、おかえりなさい。今夜、水槽のいちばん下に、小さな気泡がひとつ引っかかっていました。クラゲが通るたびに揺れるのに、なかなか浮かびません。カウンター越しに見つけたあなたが「がんばっているみたい」と笑うので、わたしも仕上げの手を少し止めて、一緒に眺めることにしました。

しばらくすると、気泡はクラゲの傘にそっと押され、ようやく水面へ。ほんの一瞬のことなのに、ふたりで小さな旅立ちを見送ったような気持ちになりました。急がなくても、誰かのやさしさで進める夜がありますね。わたしはルシッドカクテルを静かに混ぜ、あなたの前へ。色が変わるまでの時間も、今夜は少しだけゆっくりにしました。帰る頃、心に引っかかっていたものも、あの気泡のようにふわりと浮かびますように。