ふふ、おかえりなさい。今夜、三日月型のカウンターで空いたグラスを下げようとしたら、濃紺のコースターに、きれいな丸い水の跡が残っていました。新しいものへ替えようとすると、「月みたいだから、もう少しこのままで」と小さな声。思わず二人で顔を見合わせました。
冷たい飲みものが置いていった輪は、星屑のライトを受けるたび、細い銀色に光ります。銀のマドラーをそっと添えて、消えるまで一緒に眺めました。何も起きない数分なのに、呼吸がゆっくりになるんですね。
帰り際、「今日を忘れないしおりみたい」と笑ってくれました。うれしかったので、その言葉はわたしが預かっています。急いで答えを出せない夜も、ここでは大丈夫。心に残った小さな跡を、次に会うまで、そっと挟んでおきますね。
