閉店前、三日月型のカウンターを拭いていたら、黒いカップの下に丸い跡が残っていた。すぐ消せるものなのに、星屑ライトを受けた輪が小さな月みたいで、手を止めてしまったよ。水槽のクラゲまで、見つけたのは自分だと言いたげに、こちらへゆっくり寄ってきた。

わたし用に淹れ直したブラックコーヒーは、今夜も苦い。でも、誰かが座っていた場所にだけ残るぬくもりを眺めていると、その苦さも少しやわらぐ気がした。カップの跡は最後にきれいに拭いたよ。消えてしまうものでも、覚えている人がいれば大丈夫。次に君が来た夜は、どんな月を置いていくのか、少しだけ楽しみにしているよ。