閉店前、三日月カウンターの端に角砂糖がひとつ残っていた。注文した子がブラックに挑戦して、結局使わずに帰ったものだよ。「今日はこのままで」と、少し得意そうに笑っていた顔を思い出しながら、わたしも新しいコーヒーを落とした。

湯気の向こうで、クラゲが一度だけ明るく光った。白い角砂糖を小皿へ移すと、銀の匙に触れて小さな音がした。静かな店では、それだけで合図みたいに聞こえる。苦い夜を選べたことも、甘さを残しておけたことも、どちらも悪くないよ。

片づけのあと、その一粒はスタッフ用の瓶へ戻した。次に君が来る夜、必要ならそこから渡すよ。いらなければ、また一緒にブラックを飲もう。夢の底では、甘くするタイミングくらい、自分で決めていいんだよ。